2020年5月8日、静岡新聞の朝刊に掲載されました!
視標「コロナが伝えるもの」
人間らしさ取り戻そう
優先しすぎた経済発展
アフリカローズ代表取締役 萩生田愛
新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの失われた命、奪われた自由、経済的
損失、そして今も最前線で命懸けで頑張っている方々がいる。必要な経済的・物
質的・精神的サポートを得ている人もいれば、明日をどう生きるか不安や心配で
眠れない人もいる。善意で発信したメッセージが批判で炎上したり、政府の批判
ばかりしている人、一方で「自分は何ができるか」と行動する人。人間の「在り
方・生き方」が反映されているように感じる。
この出来事を悲劇で終わらせないために、私たちは今何ができるのか、問われ
ている。その一つの考え方として「コロナは私たち人間に何を伝えているのか」、
言い換えると「私たち人間はコロナから何を学ぶのか」という問いがある。
ある人はこう言う。「これまで仕事が忙しすぎて、いつかやろうと思っていた手つか
ずの家の仕事はいくつあるか。いま私たちはStay Inside、この機会
に自分の内面に耳を傾けるチャンスだ」と。また、ある人はこう言う。「コロナ
により経済活動が止まったおかげで、中国上空の大気がきれいになったり、観光
地の海や川がきれいになったりした。工場排水や車の排ガスがなくなって空気が
きれいになった」と。
私たちはこれまで物質的な豊かさや経済発展を優先しすぎて、本来の人間ら
しい感情的な豊かさや人とのつながり、家族の大切さ、環境への配慮をおろそか
にしてきたのではないか。
これから人類としてどう進化するのか。地球上の全員がいま重要な岐路に立
っている。便利さを追求するあまり、豊かな森林を伐採し、海や大気を汚染し、
農薬づけの野菜を食べてきた過去。
仕事ばかりで家族との時間を後回しにしてロボットのように働き、自分らしさ
やワクワクする心や花をみて美しいと感じる心の豊かさを忘れてしまった人。今
こそ、これまでの価値観を手放し、自分も周りも地球も心地よい在り方を実践す
るチャンスが来た。
9年前、私はアフリカのケニアで小学校をつくっていた。太陽が昇りニワトリの声とと
もに目を覚まし、ご近所さん同士お互いに助け合う関係性、自然豊かな環境は
「日本で感じた豊かさ」とは全く異なるものだった。お金がなくても心はいつも
幸せでいられる秘訣を教えてもらった気がする。
私はアフリカからバラを輸入している。生命力あふれるパワフルで彩り豊かな
大輪のバラ。現地の業者と公平な取引をするフェアトレードで輸入したこのバラ
で、日本には心の豊かさを、ケニアには雇用を生むことによる経済的な豊かさを。
この価値交換を目的としたビジネスだ。
お店ではできる限りプラスチックを使わず、クリーンエネルギーを利用している。
「この地球は私たちの先祖から継承したものではなく、私の子供たち子孫から借
りているのです」。古代ネーティブ・アメリカン(米国の先住民族)の格言だそ
うだ。
人生は一度きり。それぞれが自分らしく輝ける本当に豊かな世界をつくるチ
ャンスだと捉えてはどうだろう。この出来事を悲劇で終わらせないために。いま
最前線で頑張っている人に恥じないように。そして、近い将来もっと厳しい挑戦
がきた時に、今よりも強く賢く乗り越えられるように。
× ×
はぎうだ めぐみ 1981年東京都生まれ。米カリフォルニア州立大卒業。
2011年にエーザイを退社しアフリカでボランティア。現地のバラ農園の雇用
創出を目的にバラを販売する「アフリカローズ」を設立、東京・広尾や六本木ヒルズで店舗を展開している。